旅のイントロダクション
挑戦と冒険に満ち溢れた20代が終わり、着実とその経験を活かし歩まなければならない30代の日々がつい先ごろ始まった。甘酸っぱく、心ときめくような記憶はすでに頭の片隅にと追いやられ始めていく。そんな厚く立ちはだかる日常の壁を打破すべく、キーボードを叩き、嘗ての栄光に再び灯火を与えたいとマイブログを構築するに至った。ここ三年間眠らせていた旅の記録を解き放つには便利なツールが普及したものだ。旅の過程で書き記した日記と、撮り溜め込んだ多くの写真を元に過ぎ去った記憶を整理し、広く公開したいと思っている次第である。
旅とは、ごく一般的な旅行者も多かれ少なかれ抱くものであるかもしれないが、大袈裟に云えば、固執しきった日常を打破し、新たな境地に至るささやかな契機を得たいがために行う所作である。心身を日常から一端開放し、行く先々での新鮮な出会いや圧倒される景色に身を置くことで、自己を再構築することが旅の本来の目的であるといっては過大評価であろうか。
私もその例外にもれず、自己への活力を養う上で、入念に準備し、財を投じ、未だ見ぬ世界への活路を見出そうとこの旅を遂行した次第である。また、長く吹き抜けるユーラシアの風を体感し、グラデーションのように伝播し変化する文化と人々、或いは連綿と続き移り変わってゆく大地を目の当たりにしながら、アジアとヨーロッパの二点間をひとつの連続性として捉えることで、現在暮らす日本と世界との繋がり、さらに言えば自分と世界との繋がりを理解することができるのではないかという試みがあった。
あれから三年という月日が経ち、多くの日常的な事柄に日々追い立てられる毎日を送りながら、未だに嘗ての体験がこれら日常を実際的に処理するよい糧になっているのは確かかもしれない。そういった意味で、この旅路の記録を文字と画像で整理・公開することが私にとって、さらには読者の方々にとって更なる境地への第一歩となれば幸いである。